5-砂漠の城。





ナルシェと言う町を後にした私たちは
そのまま南の砂漠地帯へと向かっていた……






Important Feelings-Final Fantasy 6-






「あ……あづいぃぃぃぃ……」

「大丈夫…?」

「ああ〜、ティナの髪がオアシスに見えるよぉ……」

心配そうに顔を覗くティナの髪をつかんで頬擦りしているとロックに軽く小突かれた。
痛い……
それにしても……左を見ても、右を見ても…後ろと前を見ても砂砂砂〜!!
ほんっとうにこんなところに城なんてあるの!?と言いたくなるほど代わり映えしない風景なんですけど!
一人でぶつぶつ文句を言っているとロックに呼ばれた。

ほら、あそこが砂漠の城、フィガロ城だ。」

「あそこが…?城、って言うよりも町みたい…」

「ああ。城の中に町があるんだよ…って言ってもサウスフィガロから見たらぜんぜん違うけどな」

サウスフィガロ?南のフィガロってこと?
ロックの言葉にへぇ〜と返しながら私は近づいてくる城を見上げた。
昔、おばあちゃんに見せてもらったイタリアの城に少し似てるなと思った。とはいっても
こんなに大きな城ではなかったけれど。
そういえばロックはフィガロ≠チて言ったんだよね。フィガロってまさにイタリアって感じがする。
王様も向こうの男性たちのように女好きだったりして…なーんて考えて一人心の中で笑っていた。
そうこうしているうちに私たちは城に到着する。

「待て…ん?おまえか、通ってよい。王がお待ちかねだ」

「ああ…」

ロックの顔を見るなり、門番兵はにこやかに門を開けてくれた。
城の中に入るなり冷たい風が頬をなでる。エアコンでもあるのか?と思ったけれど、違うようだ。
こんな大きな城は初めてだったので思わずキョロキョロとあたりを見回してしまう。
そんな私の真似でもしているのだろうか。ティナは無表情ながらもあたりを見回していた。
かわいいなぁ、おい!
はぁはぁ…やっべ。ずっと押さえ込んでいた腐女子の私が目覚めてしまいそうだ……
ロックがこの城の簡単な説明をしていたが、正直聞いていなかった。
変態と化してティナを襲ってしまわないように自我を抑えるのに精一杯だったからだ。
自身と戦っていると突然ロックが歩を止めた。視線を上げるとそこには所々に宝石がちりばめられた大きな扉があった。
ロックはその扉の番をしている兵士たちに声をかけ、その扉を開けてもらう。
中に入るとそこは王座の間だったようで、奥には2つの王座があった。そのうちの一つには誰かが座っている。
先に入っていたロックはその人と少しの間言葉を交わし、こちらに戻ってきた。
彼と一緒に奥の人物もこちらに向かってくる。

「この娘が……?」

腰まで届く長い金の髪を青いリボンで結ったその人物はまっすぐと私を見下ろしてきた……ん?
ジロジロと舐め回すような視線に耐えられなくなって私はロックの後ろに隠れる。
男はそれに気がつき、はははと笑いながら謝る。

「おっと失礼。初対面のレディに対してする態度ではなかったな。
私はフィガロ国王、エドガーだ。して、君が例の魔道の少女かい?」

ふんわりとした声でそう問いかけてきたが、魔道?なんのことだかさっぱり分からなかった。
首を傾げているとロックがエドガーに人違いだと告げた。

「おやおや……それは失礼」

そう笑顔で言い、彼はすぐにティナの方へと向き直る。

「へへ。俺が王様と知り合いだなんてビックリしたかい?」

悪戯っ子のような笑みを浮かべて声をかけてきたロックに頷く。
すると彼は少し誇らしげに胸を張った……く、かわいすぎる。
これで私より年上だって言うのだから…犯罪だよ。

「じゃあ、エドガー。俺はに城でも案内するわ」

「ああ」

「じゃあ、またな」

「あ…」

ロックに肩を掴まれ、私は彼と一緒に部屋をあとにしようと歩き始めるとティナの不安を含んだか細い声が聞こえた。
すぐにで彼女の下へ戻りそばにいてあげたかったが…ロックが出て行き、私も連れて行こうとしているということは
聞かれてはまずい会話なのかもしれない。そう思ったから彼女の言葉が聞こえない振りをし、そのまま部屋を後にする。
ごめんな、ティナ……






王の間を後にした私は改めてロックに城を案内してもらった。
確かに外から見たように城の中は町≠フようだった。市場とまではいかないが旅人たちには欠かせない道具や王様
自らが発明したと言われている武器なども売っていた。そしてなんといっても人の多いこと!それのほとんどが城のメイドや兵士たちだと言うのだから…すごい場所だよ此処は。

「なぁ、……君はリターナーに入る気はあるかい?」

「え…リターナー?」

リターナーと言う単語に足が止まってしまった。
どこかで聞いたことがあるような響きだったからだ。
ん〜、確か…ゲームでそんな何かがあったような、なかったような……う〜ん…

「その、さ…3日間共に過ごしただけだけどさ…のことちょっと変わってるけど悪いやつじゃないと思うし。
何よりもティナが心を許しているみたいだからさ。共に来てくれたら助かるって言うか…」

頬を掻きながら話すロックの顔をマジマジと見つめると照れたようにそっぽを向いてしまった。

「私、戦えないよ?」

剣は愚か魔法も使えない私が一緒に旅をするのは危険なのでは?と思った。
しかし私のそんな言葉にロックは微笑んで大丈夫だと言ってくれた。

「道中に教えてやるって!」

「じゃあ…一緒に行くよ!どっちみち一人ででも旅しなきゃ行けなかったから…仲間がいてくれたほうが安心できる」

ロックとこぶし同士を合わせ、しばらく笑いあっていた。
そしてそろそろ王の話しも終わったのでは?と言うことでティナを迎えに行くこと。

「いかがだったかな?私の城は?」

王座の間に戻るとやわらかい笑みを浮かべたエドガーがいた。
彼の問いに感じたことを素直に告げると少しうれしそうに微笑んだ。

「あ、あの…ティナは?」

「ああ、彼女なら君を探しに行くと言っていたよ。会わなかったのかい?」

「え…そうだったんですか。すれ違いになってしまったようですね」

ティナを探してきます。そう言って部屋をあとにした。彼女を探すために走っている間、私は今までのことを整理していた。
突然現れた不思議な店。オーブとか言う石を探すために選んだ世界へと送り込まれる。
たどり着いた先は1年中雪に覆われたナルシェと言う都市、そこのガードに追われているティナ、
彼女を助けに来た冒険家のロック、今でも思い出すとぞっとしてしまうが、私たちを助けてくれたモーグリ一族、
砂漠の城フィガロ、そしてそこの国王であるエドガー王……
3日でこんなにもたくさんの情報が手に入ったのはいいけれど、なんかこ…消化の悪い物でも食べたかのように
胸の辺りがむかむかしていた。
たしかにこの世界をゲームか何かで知っているような気がしなくもないのだが、一向に思い出せない。
てか、ティナどこに行ったんだ?

城中を探せど彼女の姿は見当たらず…っておそらくまたどこかですれ違いになっただけなんだろうけど。
諦めて中央の塔へ戻るとなにやら騒がしい声が聞こえてきた。
何だろうとドアを少しだけ開き覗いてみるとそこにはピエロがいた。

「同盟を結んでいる我が国へも攻め込まんという勢いだな…それに、3つの国を滅ぼしたようだな。
どういうつもりなんだ?」

「同盟?寝ぼけるな!こんなちっぽけな国が!」

「お前らの知るところではない」

昔からピエロと言う存在は笑わせるものであると同時に恐怖の象徴として扱われているが…
王様の話しを聞く限りではこの世界では恐怖の対象とされているようだ。

「ガストラ皇帝直属の魔導士ケフカがわざわざ出向くとは?」


「帝国から一人の娘が逃げ込んだって話を聞いてな」

帝国の娘…初日に出会ったガードたちの言葉を思い出し、それが
ティナを示しているのだとすぐに理解できた。

「魔導の力を持っているという娘の事か…?」

「お前には関係のないことだ。それより、ここにいるのか?…おやぁ…」

芝居がかったような仕草を見せるピエロと目が合ってしまった。とっさに視線をそらし、何事もなかったかのように
ドアを閉めようとしたが時すでに遅し。ピエロはドアの前まで来ていた。
そして勢いよく扉を開くと私の腕を掴み、外に引っ張り出す。

「ほお…これは珍しい顔立ちの娘さんだ」

「ケフカ!!」

「くくく…金髪碧眼を好むこの国にこのような容姿の娘がいるとはねぇ……それとも、国王の気まぐれなのかな?」

エドガーの声を無視し、道化師のような化粧の下の唇がにやりとつりあがったかと思うと次の瞬間には私の首筋に触れていた。
ゾッと体中に鳥肌が立った。

「かわいいですね。今日はあなたに免じて引くとしましょう」

手の甲に軽くキスを落とすとピエロ――ケフカと呼ばれた男はは踵を返し、出口へと向かっていく。
しかし何かを思い出したのか、振り返り

「せいぜいフィガロがつぶされないように祈ることですね!エドガー王…」

そう言い残し、高笑いと共に城をあとにした。
残されたエドガーは余程男の言葉が癪に障ったのだろう。眉間に深い皺と一緒に、うっすらと額に青筋を立てていた。
私はというと…男の行動に驚いて固まっていた。

「気に食わないヤツらだな」

いつの間にか戻ってきていたロックが隣に立ち、ポツリとそんな一言を漏らす。
そして彼の後ろからティナがおずおずと顔を覗かせる。

「ティナ!」

「大丈夫だった…?」

ティナの問いに軽く手を握り微笑むと彼女もやんわりと微笑んでくれた。
その間にロックとエドガーはなにやら話していたがあまりよく聞こえなかった。
しばらくして話が終わったのか、エドガーがこちらへと向かってきた。

「君達とずっと話をしていたいが…大臣達と今後の作戦をたてなくてはいけない。
まぁ、これが王様のつらいところさ、失礼するよ」

ティナと私の頭をなで、そう言いながら彼はすぐに王の間へと戻ってしまった。
これからどうするのか。そうロックに訊ねようとしたが彼の方が先に言葉を発した。

「2人とも俺についてきな」

ティナと顔を見合わせたあと、とりあえずロックの後を追う。








BACKMENUNEXT



2007年6月20日    ILLUST BY/ふるるか