2-異次元って存在するの?





目が覚めるとそこは見知らない部屋だった。






☆Hop! Skip! Trip!!☆-The king of Fighters-天使のメロディー
サイド






「どこだ…ここ」


「俺んちさ。てか、もう目ぇ覚めたのか」


独り言に返事が返ってきてドアの方を見るとそこには倒れる前に見た金色の髪の天使が立っていた。
って、あれ?今、日本語しゃべった、よね?
驚きと関心の表情をあらわにして目の前の男性の顔を見ると苦笑しながらこちらに向かってきた。


「まあ、弟と比べたらうまくはないけど…多少はしゃべることできるぜ」


手に持っていた匂いだけでコーヒーが淹れてあるとわかる大きなカップを手渡してくれると男は近くにあった
椅子を引っ張り出し腰掛ける。


「お譲ちゃん、名前は?」





か。俺はテリー。ところではあんなところで何してたんだ?」


そんな寒そうなカッコで…とテリーと名乗った男は目のやり場に困るかのように俯いて顎だけで私の体を示す。
ああ、なんだかんだ言っても私が数時間前までいた場所は蒸し暑い真夏の夜だったからな。屈めば胸が露になってしまうのでは
ないかと思われるパジャマ権のキャミを来ているから。
恥ずかしくないの?と聞かれれば…どうなんだろう。正直、ブラジル生まれの日系人の私はきっと純な人ほど
こういった格好が恥ずかしいとは思わないのかもしれない。
とは言ってもやはりこれってどう見ても胸やお尻を隠す気がないだろうといったビキニなどは苦手だったりする。
それにポルトガル語よりも日本語のほうがしゃべりやすいと言うのも…こう考えると自分は中途半端な存在なんだなぁ
なんて思ってしまうわけで…って、今は一人の空間に入り浸っている場合じゃないか。
とりあえずこのどう見ても三十路は行ってそうな、しかし未経験の少年のごとく照れている金髪の男にどう自分の存在を
説明するかを考えねば。


「テリーさん……」


「テリーでいいぜ!」


「じゃあ、テリーは異次元トリップって信じる?」


さすがに直と聞いたのはまずかったか…思いっきり眉を寄せて私の額に手を当てながら「熱でもあるのか?」と
本気で心配しながら聞いてくる。
彼の手を振り払い、私はもう一度彼に同じ質問を投げかける。
真剣に彼の顔を見つめながら答えを待っているとテリーはひとつ大きなため息を吐き、椅子から腰を上げた。


「……どうだろうね。実際、チョーノウリョクとか言うのをつかって瞬間移動したりするやつらもいるし…」


ハンシンハンギ?と片言を使いながら笑いかけてくる。
半信半疑、か…仕方ないとは思う。私だって突然そういうこと聞かれたりすれば同じような状態になると思うし。
ベッドから起き上がり、近くの窓まで移動し外を眺める。間違いない。この世界≠ヘ自分の生まれ育った世界とよく似ている。
というよりもそっくり≠セ。ただ違うことがあるとすればそれは使っている言葉が違うと言う事だけ。
不意に短パンのポケットのふくらみが気になった。私が街中を彷徨っていた時にはなかったはず…
そう思いながらポケットに手を入れるといつもはバッグの中に入れてあるはずの財布。そしてその中には運良く、身分証明書が。
なんかあまりにも出来すぎていてぎゃくにちょっと不安になったんだけれど、とりあえずそれをテリーに渡す。


「ポルトガル語だから…読めないよね…?」


ちんぷんかんぷん≠ニいった感じのテリーに私がどこ生まれのどこ育ちかを説明した。
もちろんそれは彼が知らない世界…なわけではなく、むしろ何度も立ち寄ったことのある国だった。
しかし、それだけでは異次元をトリップしてしまったとか、なんで私がここにいるのかとかの説明にはならない。
そう、私がほしいのはもっとこう…あー、なるほどな≠ニ納得してくれそうな証拠。
腕を組んで考え込んでいるとふとしたことに気がつく。


「そういえばテリー、さっきブラジルに寄ったことあるって言ったよね?」


「ああ、ちょうど2月だったからカーニバル?だっけ?それ、やってたな」


手振り身振りで祭り中の女性の真似をする彼がおかしくて思わず笑ってしまう…って、こんなことじゃなくて!
地名も同じければ同じ時期に開催される祭り。そう思うとこれは異次元を越えたとかそういうのよりも時空を越えたと行ったほうが
いいのかもしれない。そう思い、彼に年月日を聞いてみると私のその考えは儚く崩れ去ってしまった。だって時間差はあるものの、
今私とテリーが存在してるのは数時間前までいた場所と年も月も日にちさえも同じだったから。
さて、これでどうしよう。お金は…たしかお守り用の20ドルとそのほかはレアルが400ぐらい……本当にどうしよう。


「テリー!ジーンズとシャツはあれだけ別にしとけって……?」


「え?」


英語でなにやら怒鳴り込んできた金髪の青年が心底驚いたように私のほうを見る。
そして確かに彼の口からと言う名前が洩れた…てか、私こんなかわいい子知らないんですけど…
とりあえず、彼から何か聞けそうな気がしたのは確かだった。








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2007年9月6日    PHOTO BY/MIYUKI PHOTO