7-その小さな子供に未来を託したくなったのだ。





起爆装置を手に途方にくれていた私の下へデビットが駆けつけてくれた。






Hop!Skip!Trip!!-Biohazard-outbreak-奇跡の生還-






「使い方もわからないのにやっていたのか…」

「すいません……」

どこか冷めたような、呆れたような声のデビットの顔を直視できず、私はただ謝る事しか出来なかった。
言い訳をするなら画面越しでは簡単に組み合わせることが出来たから現実でも簡単だと思った。です。
あうう…馬鹿だ。

「…これなら扱えるな。お前はシンディたちと避難してろ」

「でも……」

「……なら、そのショットガンで俺の援護をしろ」

あんさん…無理な注文はしないで頂きたいです……
大体銃なんて扱ったことないのに、援護だと?無理言わないでよ!と思ったけど、
そして助けを求めるようにケビンを見てみたけど…こっちにこれそうになかったので諦めた。
デビットからショットガンを受け取り、震える手で構えてみる。おおお…とろとろしてうるちにゾンビどもがこっちに向かってくるよぉ!!

「肩痛めたりしないよね?」

「……おまえ…銃は?」

じ、地獄耳だ、この人!自分に言い聞かせるように独り言零していただけなのに聞こえるなんて!
もちろん扱ったことないよぉ〜的に頭を横に振ると今度はじゃあ、なんでマグナムを持っているのか≠ニ問われた。

「…1丁しかなかったハンドガンはシンディが持って行っちゃったからさぁ。ほかはマグナムとマシンガンしかなかったし…」

下からものすっごい重たいため息が聞こえてきた…やっぱ?

「本当にむちゃくちゃな女だな…」

うう…心底呆れたような声のデビットにちょっとばかりムカついたので近くまで来ていたゾンビたちをショットガンで殴り倒していると、今度は唖然とされてしまった。
いやまぁ…たしかに銃で相手をボコるてのは確かに変だけどさぁ…なにもそこまで驚かなくても…

「出来たぞ…下がっていろ」

「う、うん!」

調子に乗ってゾンビたちをたこ殴りにしているとデビットの声が聞こえてきた。
起爆させるまでの間、デビットの援護はケビンに任せ、私はシンディと警官が非難している場所へと走る。
これですべてが終わるんだ。そう思うと安堵するが、同時に少しがっかりしている自分がいた。

…無事でよかったわ」

歩道橋へと続く階段のところまでたどり着くとシンディが抱きしめてくれた。
彼女から発せられる熱で彼女も私も生きているんだと実感した。
そうしている間にデビットは起爆装置のハンドルを押したのだろう。大きな爆発音と共に次々とゾンビたちが吹き飛ぶ光景が目に映った。
爆風で吹き飛び、ビルなどに体を打ち付ける者や人の姿を留めない、肉の塊となって吹き飛ぶ者たちもいた。
きっと私は元の世界に戻ってもこの光景だけは一生忘れることが出来ないと思う。



「ええ。生存者9名です……はい、ゾンビに噛まれた者は一人もいません。はい」

今は避難誘導が行われている。大通りは先ほどの爆発で使えない状態だが、別の道があるから心配ないと言うことだ。
本当に終わったんだ…ウィルを始め、数人の命を救うことは叶わなかったけど、でもケビンたち8人は、ゲームの主人公たちと言える人たちは助けることが出来た。
それだけでもよしとしよう。もう私の役目は終わったんだと思う。これ以上此処にいても何も出来ないし、そもそもこの世界での戸籍なんてないんだから。

「大丈夫か?」

「え?あ、はい…ちょっと考え事していただけです」

物語が終わったんだと考えていたら声をかけられた。
すぐにその人に顔を向けたが…正直誰だかわかんない。

「そうか。俺はアーロン。ケビンから君の活躍は聞いたよ」

「活躍?」

「ああ。バーでは皆のことを誘導し、ドリアンのトラックの中では市民を救うのに戦った…男6人がかりでも壊せなかった扉をタックル一撃で突破した猪娘ってな」

い、猪娘ぇ〜!ケビンの野郎…町を脱出したらぜったいにラリアット仕掛けてやる!
よし!まだ元の世界に戻るわけには行かないな。
アーロンの言葉に新たな決意を胸にガッツポーズを取る。
それからも彼と一言二言交わした。

「それにしても。俺たちがSTARSの言葉を信じていれば…こんなことにはならなかったってのにな…」

「…でも、これでアンブレラは終わりね」

たくさんの犠牲を出してしまったがな≠ニ苦笑しながら彼は答えてくれた。市民の救助も出来たし、これ以上この町にいてもどうしようもない。
ということで私たちはトラックの方へと向かっていたときだった。
悲劇が起きたのは…

ぎゃあああああ!!!

「何!?」

後ろの方から背筋が凍るような悲鳴が聞こえてきた。
その悲鳴の数は一つ…二つ…三つ…と次々と増えていく。
もちろん最初の悲鳴のすぐ後、トラックの傍にいた人たちの視線はそちらに移った。そしてその視界に映った光景は全員を悪夢へとまた引きずりこんでしまった。

「そんな…」

「これで終わりじゃなかったのかよ?」

「どうして…」

「もう嫌……」

起爆装置で爆破したはずなのに…やつらがまた動き始めたのだ。
五体満足なやつそうでないやつ。おそらくあの爆発を逃れることが出来た、または大したダメージを受けなかったのだろう。
生き残ったゾンビたちがこちらに向かってきていた。
トラックに乗り、すぐに逃げよう!誰かがそう叫んだが間に合わなかった。というよりも逃げ道を失ってしまったのだ。
反対側からも私たちの匂いを嗅ぎつけたのか、ぞろぞろとやつらが集まってきていた。

「せっかく此処まで来たのに!!」

「こんなところで死にたくないよ〜!!」

「ちっ…」

どんどんこちらに近づいてくるゾンビたちから逃れる道なんてない。全員がそう思い始めたとき。
アーロンがメガホンを手に叫んだ。

「アップルイン通りのホテルに救助のヘリが来る!ここは俺たちが時間を稼ぐ。市民は速やかにホテルへ向かえ!!」

大量のゾンビを相手に彼は始めから勝てるチャンスはないと思ったのだろう。彼の言葉からはそう聞き取れた。
もちろん彼のその言葉にジムやアリッサたちはすぐに歩道橋へと向かった。

「アーロン!あなたたちも一緒に!」

…俺たちの使命は市民たちを守ることだ」

「でもっ!」

これ以上、誰かに死んでほしくない!そう叫ぶと彼は穏やかな笑みを浮かべ、私の頭に手を置いた。

「君に頼みがある…もう数日すればこの町から誰も出られなくなってしまう。感染していれば危険だからだ。
だから俺たちの変わりに市民たちを守ってほしい。彼らがゾンビの手によってやつらの仲間になってしまわないように…見ていてほしい。」

「そんなの…」

「ああ。一般人の君に頼むことではないと解っている。だが、君は彼らを無傷で此処まで連れてきてくれた。君なら出来るはずだ。頼む…」

ケビンも力になってくれる=Bそう言われて、はいそうですかなんて言えるわけがない。
その間にもゾンビたちが一歩一歩近づいてきていた。

「さぁ、少しでも君たちがやつらと応戦しないでホテルにたどり着けるようにしてやる。早く行け!」

「アーロン!!」

!此処で一緒に戦っても勝ち目はない。彼らの願いを無駄にするな!」

渋る私の手はマークに取られ、引っ張られた。
そして今から最後の戦いへと向かおうとしている警官たちは、横一列に並び私たちに敬礼する。

「嫌…嫌!!アーロン!皆!」

私の叫びに警察官たちは穏やかな、そして誇り高き微笑みを向けていた。
此処は私たちが必ず食い止めて見せます=Bそう言っているかのような……

握られた手がぎゅっと強くなったのを感じ、マークへと顔を向けると、彼は静かに泣いていた。
そして歩道橋へと視線を向けるとそこにはやはり全員が悲痛の表情を浮かべていた。
ああ…皆も本当は私と同じ思いなんだ…本当は助けたいって思っているんだ。
だけどマークの言ったように皆、彼らの願いを無駄にしたくはなくて、
誰か一人だけでもこの町から救い出され、アンブレラを討つために生き残らなければと思っているんだ。
だったら、私は此処で止まるわけには行かない。たった一人だけじゃなく、8人全員をこの町から生還させてやる。
アーロンも私の力を認めてくれた。そして市民たちの命を守る役目を託してくれたんだ。無駄にはしたくない。
立ち止まり、もう一度だけ彼らへと振り返り、私は彼らに敬礼する。
そして隣のマークも歩道橋にいるケビンたちも同じようにこれから英雄となろうとしている者達へ敬礼していた。

たった今から新たな決意を胸に、ホテルへと向かうために走り始めた。



「さて、俺たちも最後の戦いへと行こう!」

「アーロン…」

ドリアンはなぜあの小さな娘にすべてを託したのかと言いたそうに俺を見つめていた。

「……彼女の瞳は期待を裏切らない。そう思ったからだ…」

訳が解らない。そう言いたそうなドリアンをその場に残し、俺は階段を駆け上がっていくその小さな背中を見つめていた。
一目ぼれをしてしまったのかもしれない。二度と会うことのないその小さな少女に。
ケビンが彼女のことを話していたとき、やつの目が輝いていたのを覚えている。あいつもきっと俺と同じ想いなんだろうな。
残酷なことだと解っている。だが、その小さな子供に…たった数分だけの愛した女性に未来を託したくなったのだ…

「こんな状況じゃなかったら…想いを伝えることが出来たのにな……あとは頼んだぞ。……」








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2007年12月16日    PHOTO BY/LOSTPIA
TITLE BY/選択式御題