5-守りたいと願う強さが力になる。





水路に落ちたあと私たちは運良くどこかへと繋がっているはずの土管を見つけることが出来た。
とりあえずその中へ非難する。






Hop!Skip!Trip!!-Biohazard-outbreak-奇跡の生還-






土管の中に入ってまず感じたことは――ここでも誰かが助かるべく戦った跡やバリケードを張ったあとが
ある。ということだった。
もちろんその人が誰で今はどうしているのかなんてわからないけれど、心の中で礼を述べる。
その人物が存在したからこそ私たちは道に迷うことなくレイモンドさんが言っていた
アップルイン前通りへとたどり着くことが出来たのだから。

「こちらはラクーンシティ警察。落ち着いてこちらへお集まりください。
こちらに避難用車両が待機しています。」

土管から地上へと出た私たちの耳に届いた言葉だった。
避難用車両……その言葉に誰もが安心のため息を漏らした。
この生還メンバー内で一番の臆病者のジムは我先と言わんばかりに駆け出して警察官が待っているであろう
場所へと向かってしまった。

「傷は大丈夫なのか?」

「うん。かすり傷程度だし、平気だよ」

そっか。とどこか安心したようにケビンがつぶやく。
彼の気持ちは私にも良くわかった。ここまで私以外の人はかすり傷ひとつ作らずにこれた。
これだけでもいい兆しだと思う。

「ねぇ、ケビン……」

「なんだ?」

どこへ続くかはわからない門を背に座り込んでいる男性の顔色が悪いことを伝えようとしたが、
私が言葉を発する前に先ほどの警官――ドリアンさん(美味しそうな名前――と言うのはこの際
置いといて)がメガホンで生き残りの市民たちに声をかけ始めた。

「町が封鎖される前にこの脱出しなくてはなりません。お集まりの市民たちは速やかに
トラックにお乗りください」

彼の掛け声に私たちはトラックへと向かう。

「ケビンか…無事で何よりだ。生き残りは…これだけか?仕方ない、これ以上は
待てないからな。乗ってくれ」

そして全員がトラックに乗ったのを確認した後ドリアンさんは車を発信させた……

…傷は大丈夫なのか?」

本日何度目のこの質問なのだろう…盛大なため息でも吐いてやろうかとも思ったけど、
とりあえず苦笑だけで済ませておくことにした。ちょっとした嫌味も忘れずに。

「さっきケビンにも聞かれたよぉ。ゾンビにかまれたわけじゃないしかすり傷だから平気だよ」

「そっか…ケビンがか」

ジロリと彼を一睨みするマークに当の彼はなぜか口笛でも吹きそうな感じでそっぽを向いてしまった。
そんなケビンに何か言おうと口を開きかけたが、マークの口から一言も
出ることはなく、彼は俯いてしまった。きっとボブさんのことを考えているのだろう。
そのほかの人たちはそれぞれが好きなことをしていた。
そしてそんな平和≠ネ雰囲気と少しだけ休めると言うことに私はすっかり油断してしまっていた。
いや、そもそもその前に今はこの時間≠ェ現実であることすら頭の中に置いていなかったと言える。
そんな一時の安らぎは一瞬のうちに終わってしまった。突然のシンディの叫び声に全員が視線を向ける。

「い…やぁ…た、助けて!」

「シンディ!」

マークの隣に腰掛けていたジョージが立ち上がり彼女の下へかけていく。
いったい何が起きたのか、数秒間わからなかった。
けれどすぐに思い出した。トラックに乗り込む前に私がケビンに伝えようとしていたこと。
そしてその考えから導かれるひとつの答え…そう、先ほどのあの男性がボブさんと同じように
ゾンビ化してしまったのだ。それが近くで同じ怪我人の手当てをしていたシンディを襲ってしまったのだ。
ウィルの時からずっと感じていた自分の無力さをここでも感じずにはいられなかった。
体が強張ってしまって、まったくといっていいほど動かない。それと同時に思考さえ止まってしまうような
感覚が襲い掛かってくる。動けない私の目の前が真っ暗になったとき、初めて今の状況を見つめることが出来、思考も戻ってきた。

「アリッサさん……」

「ボーとしてるんじゃないわよ!いつでも逃げれるように後ろの扉のロックを見張っていなさい!」

「わ…わかった!」

言われたとおりすぐに扉のロックをはずせるよう待機する。
ちらっと後ろを見ればジョージさんがゾンビとなった市民を羽交い絞めにしていた。
しかしこの狭い場所でそうなってしまった以上ケビンやマークも無闇に銃を発砲することは出来ない。
ただでさえ目の前のシンディと自分を捕まえているジョージを食らい殺そうと暴れているのに、
下手に撃てば彼らに当たってしまうかもしれない。

「ど、どうしょう…」

「ヨーコ……」

きっとアリッサに言われたのだろう。いつの間にかヨーコが隣に立っていた。
移動中の揺れで彼女の体が触れると微かに震えているのが感じとれた。
しっかりしなきゃ…物語をどう進めていけばいいか未来を知っている私がしっかりしないと。
目の前の起こるはずのなかった¥況を回避するため、瞳を閉じる。そして何度も何度も読み返した
取扱説明書や攻略本に記載されているキャラクターたちの設定を、バイオと言うゲームを、思い出してみる。
なにかがあるはず…銃を使わずしてゾンビたちを戦闘不能に出来る手段が……

「ああ…う、うう後ろのやつもゾンビ化し始めちゃったよ〜!!」

これだ!と思ったと同時にジムの情けない声が耳に入ってきた。
彼が指差す方へ視線をやると確かに先ほどシンディが手当てをしていた市民が痙攣を起こし始めていた。
先ほどのやつと…J's Bar屋上のボブさんと同じだった。このままではシンディだけではなく
ジョージも危険な目にあってしまう。逃げてっ!と
誰かが叫ぶより早く、私は扉をヨーコに任せ、走り出していた。

「デビット!ジョージとシンディの所にいるゾンビの頭をぶっ飛ばして!アリッサ、借りるよ!」

周りから突然のことで疑問や戸惑う声が聞こえてきたがかまわない。今はゾンビ化し始めた市民と
まだ短い間だけど、仲間≠襲っているやつを始末するのが先だから。
後ろからケビンの声が聞こえるがあえて聞こえないフリをする。

「…Sorry!!」

両手を前に突き出し、唸り始めた市民が立ち上がろうとした瞬間、そうはさせまいとありったけの
力を込めて鉄パイプを振る。
どごぉっ!!と大きな音と一緒に一瞬だけだが頭蓋骨がつぶれた音と感触が腕に伝わってきた。
もちろん先ほどの鉄パイプは見事に折れ曲がっている。
そしてすでに腐敗臭を放ち始めた返り血を浴び、思わず吐きそうになる口を手で押さえる。
その近くで数人の吐く音が聞こえてきたりするもんだから、我慢できないのではと
涙がうっすらと浮かび始めた。

「…吐きたいなら吐けばいい」

やはり気分のいい感じがしない声でデビットが声をかけてきた。
無愛想に見える彼の手がゆっくりと背中を撫でてくれる事に彼が本当はどれだけ優しい人なのかを
感じることが出来る。
そのまま彼の言葉に甘えて吐いてしまおうかと一瞬脳裏を過ぎったが、すぐにそれを追い払う。
プライドとかそんなものじゃなくて、もし本当に私を含めみんなをこの地獄から救い出したいなら
吐いてはいけないとそう思ったから。
一度座り込んで吐いてしまえば、泣いてしまえば私は二度と立ち上がれないと思った。だからゆっくりと
頭を横に振り大丈夫だと伝える。

「ありがとう…そしてごめんね、

「助かった…礼を言う」

後ろからふわりとシンディに抱きしめられ、ぶっきらぼうにけれどしっかりと礼を言ってくれるジョージの
やさしさにまた目尻が熱くなるのを感じる。
だめだ、まだ終わっていないんだ。ここで泣いたら駄目だ。自分にそう言い聞かせながらなんとか笑顔を
浮かべ、無事で何よりといってあげる。

そう、まだこの脱出劇は始まったばかりなのだ。
まだ何も出来てないのに諦めて泣くことなんて出来るわけがない。
守りたいと願う心を強さに、そしてその強さを力に変え振り返らず前を進もうと決意した。








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2007年11月15日    PHOTO BY/LOSTPIA
TITLE BY/選択式御題