冥福を祈るように





「…冷酷なやつだと思うか?」

フェンスを乗り越え、反対側のビルに飛び移ろうとしたとき、不意にそんな言葉を投げかけられた。






Hop!Skip!Trip!!-Biohazard-outbreak-奇跡の生還-






「別に…そんなこと思わないよ…よっと!」

「……」

「だってさぁ…ボブさんの望みはゾンビとなって人の肉を求め彷徨うことじゃなかったんだから。
あれでよかったんだって思う。ううん、あれが友のためにしてあげられることだったんじゃないかな?」

「……あいつの死すら悲しまなかったのにか?」

「…それはうそでしょ…」

フェンスを壊し、向かいのアパートの頂上に飛び移った私のあとに続いたマークはそんなことを訊ねてきた。
友の死を悲しまなかった――それは口からのでまかせだってことは痛いほどにわかった。
本当ならあの場で友の亡骸を抱きかかえ、声を上げて泣きたかったはずなのに。
でも私はわかっていた。彼がそうしなかったのは…

「…今は泣いてる場合じゃない。自分だけの命がこの手の中にあるわけじゃない――
そう思ったからでしょ?」

…」

「まともに戦えるのはマークとケビンだけだもんね。みんな解っているよ」

「ありがとう…」

「……一秒でも早く、この地獄から出ましょ!!」

全員がこっちの方に飛び移ったことを確認し、私たちは先ほど聞こえてきたアナウンスがあった場所へと
向かうべく、走り出した。






「よく無事だったな。町中がまるで戦場のようだ。少し手を貸してくれないか?あのパトカーを
押してバリケードを作ってくれ…頼む!」

「はい!」

バリケードを作るためのパトカーは2台。
そこで私たちは足の速いアリッサ、デビット、ケビンを奥のほうへと向かわせた。
ここであえてケビンを向かわせたのはほかの2人がパトカーを押している間、ゾンビたちからの
攻撃を受けないよう援護をするために。
そして残った私たちは後ろに止まっていたパトカーを押し始める。
その間に警官のレイモンドさんはJ's Bar前通りへと続く扉の鎖をはずしていた。

「こっちだ。急げ!!」

J's Bar前通りへとたどり着いた私たちはここで足止めを食らってしまった。
アパートの裏路地へと続く扉が硬く閉ざされていたから…

「おいおい!鍵持ってないのか?レイモンド!」

「ああ、まさか閉ざされてしまうとは思っていなかったからな…」

「ちっ、どうする?」

「…扉を蹴破るしかないでしょ……」

「蹴破るぅ〜?」

「弾は無駄に出来ないもん!」

そりゃそうだとレイモンドさんも納得してくれた。
なのでここはレイモンドさんを含めた男どもは扉を蹴破るべく、タックルしたり蹴ったり
してもらうことに。

…腕、怪我してるわね。見せて」

「え…おおー、どこでやったんだろ?」

「なーに、覚えてないの?」

「いや〜、逃げるのに夢中だったから…」

アリッサの何気ない突っ込みにあははと笑いながら答えることしか出来なかった…いや、だって本当に
どこでこんな傷を作ったのかまったく覚えていないんだもん。
シンディに手当てをしてもらっていると奥のほうから不気味な呻き声が聞こえてきた。

「あれは…みんな早く!ゾンビが来た!!」

「ち、あと少しだ…!ゾンビにタックルでもかましてやれ!」

「無茶言うな!!このだめだめ警官!ってぎゃー!!」

ケビンの無茶苦茶な言葉に反論している間にゾンビがすぐ近くまで来ていた。
…あんさんら、歩くの早くね?
突っ込むことに集中している間にシンディたちはとっくにケビンたちの近くへ避難していた。
チキショー……こうなったら全力疾走してやるから!

「うおおおお!!!退け退けぃ!!」

「ちょっ…それ無理…ぐおっ!!

ええ。暴走猪のごとく突進しましたよ。もちろんこの火事場の馬鹿力のおかげでもろくなっていた扉も
壊すことに成功したし…じゃっかん一名の黒人さんを巻き添えにして…あ、あははは…すまぬ、ジムよ。
空笑いをしていると後ろのほうから「無茶苦茶な女だ…」と呆れたデビットの声が聞こえてきたが…うん。
ここは気づかないふりをするのが一番…だよね、たぶん。
いや、もちろんこんなのんきに語っているのは私だけであって、残りのみんなは
先ほどより数が多くなったゾンビを相手にしていた。

「くっ!ケビン!全員を連れて先に行け!!」

「レイモンド!?お前も…」

「ここは私が引き受ける!早く行け!!向こう側にタンクローリーがある。ガソリンをぶち撒いて
火をつけろ!行けぇ!!」

「あ、ああ…」

眉間に深い皺と苦痛の表情を浮かべながらもケビンはみんなを引き連れて
タンクローリーの方へと走り出した。
もちろん向かう途中でレイモンドさんの断末魔の叫びが聞こえたとき、ケビンだけじゃなく、
マークやアリッサたちの顔にも悲痛の表情が浮かんだ。
ここでも何も出来なかった…銃さえ扱うことが出来たなら共に戦い、運よければ救えたかもしれない
命だったはず…ここでもやはり自分の無力さを感じさせられた。
せめて今の私に出来ることといえば、市民たちを守るために殉職してしまった彼の遺体が
ゾンビたちの仲間入りしないよう、燃やすことそして少しでもいい場所へいけるよう冥福を祈ることだけ…
みんなをさきに非難させ、バルブを回し勢いよくあふれたガソリンにJ's Barで入手したライターに
火をつけ投げ捨てた。

!早く来い!」

ケビンの私を呼ぶ声ははっきりと聞こえていた。けれど私の体は動かなかった。
ライターから出る小さな火柱が燃料に触れると同時にそれは見事に広がり、大きな炎の絨毯と化し、
その先にいたレイモンドさんの死体とゾンビたちを包み込んでしまった。
画面越しで何度も何度も眺めたはずのその光景が今は目の前で起きていた。
その光景に私は自分が一生足を踏み入れることのない世界――人を殺す…すでに死んではいるが、
歩いている人をこうも大量に殺めてしまうその光景にここまできて初めて恐れた。
胃の中の物すべてを吐き出してしまいたい気持ちだった。

「何をしている!」

「え…あっ」

ボーとその光景を眺めていた私の耳元で擦れた声が聞こえ、次の瞬間には水の中に落ちていた。
そして数秒後、タンクローリーが爆発した。






私は…まだ生きている。
みんなも…生きている…
そしてもうすぐ、一時的ではあるが、この悪夢も終わる……
ここまで来る間に残してきてしまった人たちの冥福を祈るように
私は溢れ出そうとしていた涙を堪えた……








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2007年10月28日    PHOTO BY/LOSTPIA
TITLE BY/選択式御題