砂に書いたラブレターE
砂に書いたラブレター
どうか君に届きますように……
砂に書いたラブレターその6
「……キュルー…。」
私はベランダで空を見上げた。
定食屋から帰ってきてからというもの、
テマリちゃんの言葉を信じずっとこうして待ち続けている。
あの時。
定食屋でテマリちゃんは耳元でこう言った。
「我愛羅には伝えておく。夜まで待て。」
と。
夜になれば我愛羅くんが会いに来てくれるのだろうか。
しかし宿の場所を教えていない。
それにあんな小さな子供が私を見つけられるとも思えない。
どうしたらいいのかわからない私は、
少しでも見つけやすいようにこうしてベランダで待っているのだ。
「……っくしゅん。」
さすがに夜は冷える。
月は雲で覆われ、辺りは薄暗い闇に包まれていた。
私の鼻から垂れ下がる鼻水をすすりながら身震いする。
カカシさんたちがいなくて本当によかった……。
カカシさんたちは夜の演習と言ってどこかに行ってしまった。
もし部屋にいたらきっとベランダに出してもらえなかっただろう。
「キュルー…。」
我愛羅くん……。
私は目を閉じ星に祈った。
我愛羅くんに会えますように……。
すると。
私を周りを風が走りぬけるのを感じ、
目を開け空を見上げれば、雲が流れその切れ間から月がのぞいていた。
そして空を見上げると同時に目の脇に何かの存在を感じ、
ゆっくりとそちらに顔を向けた……。
「キュル…………!?」
………ひぃぃぃぃぃっっ!!
私は驚きのあまり普段発揮されることの無い瞬発力でもって、壁際まで後退った。
そして頭をぶつけた。
「キュルキュル――!!」
ごめんなさいごめんなさい!!
私、何モ持ッテナイデース!!
恐怖のあまりインチキ外人口調になりながら、
クラクラする頭を抱えて丸くなった。
「…………キュルキュル!!」
「………………。」
食べてもおいしくないですからっ!!
カカシさんに甘やかされてぶよぶよだし毛皮にしたって高く売れないですー!!
……………。
って……!?
今「」って言わなかった……?
私は勇気を振り絞って肉球の隙間からそっと声の主を見上げた。
「キュル……?」
逆光で表情は見えないが、
背丈はサスケくんと同じくらい……といったところだろうか。
声の感じからきっと少年という表現がふさわしい年頃だと思う。
我愛羅くんと知り合い……?
どうやら変な人ではないみたい。
私はゆっくりと体を起こすとその少年と向き合った。
「キュル?」
君は誰?
今度はじっくりと観察する。
月に照らされている髪は赤い。
そして額には「愛」の文字。
「お前は………なのか?」
その表情はわからないが信じられないといった声色だった。
「キュル。」
そうだけど。
私は警戒を解き、おそるおそる一歩近づくと。
その少年は私の前に片膝をつき顔を近づけた。
近づくにつれてハッキリする顔。
「……キュル!?」
今度は私が驚く番だった。
だって。
年恰好は違うけど、その顔は間違いなく我愛羅くんだったんだもん。
「キュ、キュル!?」
な、なんで!?
何で成長してるの?
数ヶ月前までは3,4歳だったじゃん!!
空いた口が塞がらないまま我愛羅少年を凝視した。
「何でお前がここに……?
10年前のあの日、いなくなったお前が……。」
「キュル!?」
10年前!?
ますます開いた口が塞がらなくなった。
ってことは……私はあの時タイムスリップしてたってこと!?
そんな……そんなこと…………。
……………あり得る。
そもそも私だってトリップしてるんだし、
タイムスリップがあったっておかしくはないよね。
でも、どうやって説明したら……。
と、その時。
「ただーいま。」
部屋のドアが開き、カカシさんの声が聞こえた。
「「!!!!」」
我愛羅くんはカカシさんの気配を感じると、サッと立ち上がり立ち去ろうとした。
とにかく必死だった。
このまま離れ離れになるわけにはいかない。
そう思い我愛羅くんにしがみついた。
「!?………とりあえず移動する。」
驚き一瞬動きが止まったが、私を抱え上げると
カカシさんに見つかる前にその場から去った。
後から聞いた話だけど
この後のカカシさんはすごかったらしい。
何がすごかったって……とにかくすごかったらしい。
私を探すため、
トイレのドア、押入れ、タンスのドア……扉と言う扉を開け、
テレビの後ろ、ゴミ箱の中、排水溝の中……どう見ても
私が入れそうも無いような穴という穴まで覗いたらしい。
そしてようやく私がいないとわかったカカシさんは
「……はっ!!暗部……暗部なのか……!?」
というセリフを残して消えたらしい。
暗部って………何?
全て後から聞いた話だけどね。
少年版我愛羅くんにしがみつきたどり着いた場所は。
あの日私たちが出会ったあの丘だった。
なんだか観光地化されているが間違いない。
あの時、私が書いた文字があの時のまま残っていた。
「あの日……。」
我愛羅くんは私を地面に下ろすと文字の前に立ち、
私に背を向け、ポツリ、ポツリと語りだした。
「目が覚めたら……俺一人だった。
周りを探したがどこにもいなくて……夢かと思ったんだ。」
「キュル……。」
「だけど、この文字があったから夢じゃないんだとわかった。
それから毎日ここに通ってを探した……。」
我愛羅くん……。
「毎日ここに来ては、ここでを待ったけど……
そのうち……はやっぱり俺のことが怖くなって逃げ出したんだと思うようになった。」
「キュル!!」
違う!!
そうじゃないの!!
私は一生懸命首を振り続けた。
しかし。
依然、我愛羅くんは背中を向けたままこっちを見ない。
あの時消えたのは、決して我愛羅くんが嫌いになったからじゃない!!
そう伝えたいけど
今の私にはそれを伝える手段がない。
すごくもどかしくて……涙がこぼれた。
「あの時……なぜ俺の目の前から消えた……?
やっぱり俺が怖くなったから……。」
そう言うと我愛羅くんは拳をきつく握り締めた。
「………キュルッ!!」
私は我愛羅くんに駆け寄り背中をよじ登ると、
首に腕を回し我愛羅くんにしがみついた………いや、ぶらさがった。
私は我愛羅くんのことが嫌いになったんじゃないの!!
今でも大好きだよ!!
だから…………そんなこと言わないで。
私はそう念じながら背中に顔をこすりつけた。
「……僕のこと……嫌いになったんじゃ……ない…の?」
「キュル!!」
うんうん!!大好きだから!!
頷くたび、流れ落ちる涙と鼻水が我愛羅くんの背中に染み込んでいく。
「キュル。」
私は垂れ落ちる鼻水を拭くこともせず
そのまま我愛羅くんの正面に回り込み、顔を覗き込むと。
我愛羅くんは
「そっか……。」
そう言ってそっと笑った。
「キュルー!!」
我愛羅くん!!
私はさらに涙を垂れ流し、
さすがにカカシさんでも引くんじゃないかと思われる顔で
我愛羅くんにしがみついた。
「もう、詳しいことは何も聞かない。
が俺のことを嫌いじゃないってことがわかればそれでいい……。」
我愛羅くんは壊れ物を扱うかのようにそっと大切に私を抱きしめてくれた。
「やっぱり、って暖かいね。」
私達はしばらくその場で抱き合った。
宿に帰ってきたときにはもうすでに明け方だった。
あの後、私達は秘密基地へ行き、いろんな話をした。
いろんな話といっても、私が手振り身振りをしながらキュッキュ言ってるだけだったけどね。
それでも我愛羅くんは、はにかみながら私の話を聞いてくれた。
その顔はあの日のまま変わっていなかった。
私はそれがうれしくて我愛羅くんの膝の上に座ったり、
頭の上に移動してみたり、
我愛羅くんの周りをうろちょろうろちょろしていた。
そして、その後2人で抱き合って寝っ転がって………あの日のように眠りについた。
目が覚めたとき、私は宿のベランダで寝ていた。
きっと寝ている私を我愛羅くんが運んでくれたのだろう。
もう隣に我愛羅くんがいないとわかった時とても寂しかったけど、
私の首にある首飾りを見たら傍にいなくても
いつでも一緒にいられる……そんな気がして思わず笑みがこぼれた。
砂で出来た首飾り。
我愛羅くんからのプレゼント。
寝ている間に首に掛けてくれたのだろう。
顔をだしはじめた朝日に向かい、
「キュルル。」
ありがとうと声を掛けると、我愛羅くんが笑ったような気がした。
時空の旅で手に入れたものは
時空を越えた友達でした。
どんなに離れていても。
ずっと、ずっと友達だからね。
***おまけ***************
次の日。
「カカシ先生昨日の夜どこに行ってたんだってばよ。」
「そうそうもいないし、カカシ先生もどっかいっちゃうし。」
「キュルッ!?」
そ、それはちょっと野暮用で……って、はっ!!!
カ、カカシさん……目が血走ってる……。
「………暗部め、許さん……。」
だ、だから暗部ってなんなのさ。
***************
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やっと完結です。
最初はもっとコンパクトなお話の予定だったのですが、
どうも話をまとめられなくて・・・。
読んでくださった皆様、あざっした!!
ILLUST BY/ふるるか