桜舞い落ちる頃には…/前半





ひらひらと落ちてゆく花びら

淡い桃の色はまやかしのよう…

繊細な指先で手招きをするあなたも

淡い肌の色…私もそっちに行ってもいいですか?






NARUTO‐そのドアの先には…
暁/サソリ編



桜舞い落ちるころには…前半







今年もこの季節がやってきた…幼き思い出の眠るこの季節が…

淡い桃色の雪が降る季節が、空一面淡い色で埋め尽くされている季節、
私の嫌いな季節。

なぁ、ー…桜の花って儚いよなぁ

突然何言い出すのよぉ

桜の木下で腰を下ろし花見をしていた二人。
何を思ったのかサソリは突然語りかける。

だってよぉ、こいつらの寿命はすぐに来るんだぜ?
2〜3日、よくて1週間。それだけの時間しかなくて、
その後は散ってしまうなんて寂しいと思わないか?

…確かにそうだね…その後は一年も
待たなきゃいけないのにね…なんか、私達みたい…



の言葉に疑問を浮かべるサソリ。彼女はサソリの方を一瞬見、
落ちてくる花びら達へと腕を伸ばす。

だって私達だってそうなんだよ…生まれてきて、育てられて、
アカデミーに通って卒業してやっと忍になれる…
そんなに待って…待って、頑張って忍になったのにすぐに
命を落とす者たちもいる…桜のように待って頑張ったのに、
神様が与えてくれる時間は短すぎるくらい…だから似てるなって…

膝を抱え込んでしまう。サソリの顔にも寂しい影が降りる。
二人がなぜこんなにも悲しい気持ちを抱えてるのかの
答えは一週間前になる……



とサソリは幼馴染…とは言っても彼女にとって、
サソリは兄のような存在。
そんな二人と仲がいい人がもう一人…

“サソリィ!!!ちゃん!!!”

遠くから息を切らしながら走ってくる、
桃色の淡い髪と蒼い瞳の女性…

“あ!アンズねーちゃん!!”

“はあ…はあ…遅くなってごめんね。3代目様がなかなか
返してくれなくってさぁ…”

乱れた呼吸を治しながらアンズは喋る。

“おい…髪乱れてんぞ。来い、直してやるから”

“え?あ…うん”

サソリに背を向け、乱れた髪を直してもらうアンズ。
少しばかり顔が赤いようにも見える。

ちくん――…

なんだろう…この胸の苦しさは…

このときのには解らなかった。自分が
恋をしてることに…あの時までは……



“サソリィ!さっき風影様がさぁ、今度の任務は
私達3人でって…!!……”

サソリの部屋の前で突然立ち止まり言葉を失う。
少し開いたドアからはアンズとキスを交わすサソリの姿が…
アンズもそれを嫌がってる様子はない。

ちくん――…

まただ…私の心臓、おかしくなっちゃったのかな?
なんでこんなにも苦しいんだろう…

は自身の胸に手を当て、俯く。
誰が見ても解るぐらいに彼女の表情は泣き出してしまいそうなほど…
その場にいるのが辛いと判断した彼女はとりあえずその場から立ち去る。



?そろそろ任務に行く時間だぜ?”

いつもは誰よりも早く集合場所へ来ているはずのがいないため、
サソリは迎えに来ていた。



ガチャリ――…

“!…おまえ顔色悪いじゃねーか!何があった!?”

“なんでもないよ…大丈夫”

数日前の出来事がショックだったため、
彼女は眠れない夜を過ごしていた。
睡眠不足により顔は青白く、今にも倒れてしまうのではないか
と思わせる姿にサソリは驚きを隠せないでいる。
彼女の額に手を伸ばすが、その指先が額にふれる前に
拒まれてしまう……
一瞬身を引いたの行動にサソリは眉を寄せるが、
大丈夫と言って微笑む彼女の顔を見て、
彼はため息を吐くことしか出来なかった。

!火遁で攻撃してくれ!アンズは
敵の集中を幻術でそらしてくれ!”

“う、うん!”

“任せておきなさい!!”

三人の連携は完璧だった。3代目にとっても彼らの組む
スリー万セルは鼻高々に自慢できるものだった。

“ソォラァ!!”

グッシャアアアア!!!!!

“ヒュー!相変わらず残酷ぅ!!”

“ふん!おまえには言われたくないな…”

戦闘中でもふざけるアンズとサソリ。
それを少し離れた場所から見ていたは数日前の
出来事を思い出していた。
二人のキスシーンを…

ちくん――…

ああ、苦しい…胸が苦しいよ…私、私、サソリに恋して……

もらったぁあああ!!!

!!後ろ!”

ちゃん!”

“え?”

それは一瞬の隙だった…息絶えていたはずの敵が
を目掛け、突進してくる。手にはクナイをもって…

“殺られる!!”

目を瞑って最後の時を待つの顔に大量の血がかかる…
しかし一向に意識が薄れる気配も痛みも感じない。
恐る恐る目を開けてみるとそこには桃の淡い髪が……

アンズが彼女の代わりに攻撃を受けたのだった。

“だい…じょ…ぶ…”

“あ…ああ……ねーちゃん?…アンズねーちゃん…
い…いやあああああああああ!!!!!!

倒れるアンズの体を支えながらは泣き叫ぶ。

“て…めぇぇええええ!!!”

グシャアアア!!!!

“アンズ…おい!アンズ!!!”

サソリは敵に止めを刺し、アンズの元へと駆け寄る。

“うっ…うう…アンズねーちゃん…”

“ば…か、泣かないの…はあ…大丈夫だから…”

強がって見せるアンズ。血に濡れた手をゆっくりと
の頬へと伸ばす……

“でも、でも!”

“あんたの…せいじゃない…よ…”

“アンズ?”

“サ、ソリ…”

しかしその強がりも一瞬で消えてしまう。
サソリの顔見た瞬間、アンズはその大きな瞳から
大粒の涙を流し、一生懸命に言葉をつなげる。
まだ死にたくないと……

“わ、私、医療班呼んでくる!”

はアンズの体をサソリに任せ、その場を去る。
医療班を呼ぶため…そして、嫉妬してる自分の心を隠すために。

“恥ずかしい…ねーちゃんが苦しんでるって言うのに
心のどこかで喜んでいる自分が恥ずかしい…”

砂漠には季節外れの雨がポツポツと
降り始めていた……



〜砂の里〜

“チヨばーちゃん!!アンズねーちゃんが、アンズねーちゃんが!!”

“どうした!アンズに何かあったのか!?”

バンッと勢いよく開いたドアに驚き、危うくお茶を
噴出しそうになったチヨバアは慌てた様子の
アンズの名に顔色を変え、席を立ち上がる。

“私を庇い敵に…詳しいことは後で話します!
今は一緒に来てください!”

“もう…必要ない…”

息を切らしながらチヨ婆の腕を引っ張り連れて行こうしている
の後ろから声が聞こえた。
後ろを見るとそこにはグッタリとしたアンズを抱えた
サソリが立っていた。

“サ…ソ、リ……”

“ババア…地下室借りるぞ”

“アンズを傀儡にするのか…”

“ああ…”

“……ほれ、地下への鍵だ。3代目にはワシから言っておこう”

“…すまない…”

短い会話を交わした後、サソリはアンズの体を抱え地下へと姿を消した。
傀儡に関しては無知なはその後姿を見ているしかなかった。

サソリが地下に降りてから一週間が過ぎた。チヨ婆に訊ねても
“サソリなら大丈夫じゃ”と言う言葉しか戻ってこない…

私に出来ることなど…何もない…こんなことなら
サソリに傀儡について学んで置けばよかった……

は春になると満開になる愛桜並木道に来ていた。
どこもかしこも砂で満足に花すら咲かない里で唯一、
春になると花を咲かせる場所だった。
今はちょうどその時期で、そこはまるで春の雪景色のごとく
淡い桃色の雪が降っていた。淡い桃色の雪…アンズと同じ色の雪…

自然と涙が溢れてくる。一週間前なら此処は3人で
歩いた大好きな道、3人で笑いあった場所、3人の待ち合わせ場所。
けれど今は…今は……

は一人、歩いていた。笑いながら歩くはずの道を泣きながら…
声にならない痛みを抱えながら……







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2006年5月3日 ILLUST BY/ふるるか