お菓子とお茶とヒナタと……





甘く…

優しく…

癖になる…






NARUTO-そのドアの先には…
木の葉/ヒナタ編



和菓子とお茶とヒナタと…







暗部として生きてきてもう何年がすぎただろう…
むやみに顔を見せることが出来ないため、私の顔を知る者は少ない。
だけど…そんな気疲れを癒してくれる場所を私は見つけた…
そこに行くと必ず暖かいお茶とほのかな甘味の和菓子が出てくる…
和菓子と同じくやわらかく甘い笑みを浮かべた女の子と一緒に。

「ヒナタ…?」

「あ、さん。いらっしゃい」

黒のおかっぱ頭の女の子が柔らかな笑顔で迎えてくれた。
私はいつものように彼女の部屋のベットに腰掛、俯く。
別になにを話すでもなくただ二人とも座って時計の針の音を聞いている…

パタン…

しばらくその時間を満喫するとヒナタはベットから立ち上がり部屋を出て行く。
彼女が戻ってくるまで私は一人の時間を過ごす。
正直この時間は嫌いだ。
この仕事の所為で、静かになると耳を澄まし、あたりの気配を探るようになってしまうからだ。
そしてその日の任務を思い出してしまうから…



、さん?」

「……ゴメン」

いつの間にか戻ってきていたヒナタが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
私はそれに対しいつものように謝るだけ…
彼女は優しく微笑み、暖かいお茶を煎れた湯のみを渡してくれた。そして、部屋の隅にあった
折りたたみ式のテーブルを近くまで持ってきて上に和菓子を置いてくれる。

今日の和菓子は千鳥饅頭、か…なぜか彼女は私の好きな和菓子をいつも買って来てくれている…
別に好きなもののリストを渡したわけでもないのに。

「き、今日も大変な任務だったんですか?」

普段なら二人とも無言で和菓子と茶を完食するのだが、今日は違っていた。
彼女が顔を真っ赤にしながら問うてきた…
いつもと違う彼女の態度に多少驚きつつも私は相槌をうつ。

「……風の里に行ってきた。詳しい内容は話せないが…きょうも人を殺した」

「………」

ヒナタは私の言葉を聞き、悲しい瞳で俯いてしまう…
しばらくの間を挟み、彼女は顔をあげ、口を開く…

「暗部を…や、辞めたいと思ったことはないんですか?」

「…なぜそんなことを聞く?」

「そ、それは…」

彼女はそこでもう一度俯き、今にもその大きな薄紫色の瞳から
涙が流れるのではないかと思わせる、そんな表情になる。

「……さんが…今にも壊れてしまいそうだからです…」

「……」

意外な言葉だった。
普段から仮面の下に隠れ、彼女のところで過ごす時間も長い髪の下にこの顔を
隠しているのに……彼女は私の心がわかるようだ…なぜ?
私は長い髪の下から彼女の瞳を見つめる。

薄紫の大きな瞳…
ああ、そうか…
彼女は日向一族の娘だったな……
この職業のせいで、人のことを気にすることを忘れていた。
いずれは死んでしまうものなのだからと…

「辞めようとは思わない。けれど君の言葉は間違ってはいない…」

さん…」

きっと彼女は何故?と思っているのだろう。
私は忍びが嫌いなわけではない。逆に、この職業が出来ることがとても好きで幸せを感じる。
けれど暗部だけは好きにはなれない…
暗部に入るってことは…これから先、任務での存在を認めてもらえても…
素の自分を誰かに認めてもらえることがなくなるのだから。

孤独と一緒に歩いていくこの道、だれにも知られずに消えてしまうこの道。
今、目の前にいる、この女の子には歩んで欲しくない…
優しい瞳の柔らかい笑顔…この笑顔が血で染まるのを私は見たくはない…

「そういえば…」

「?」

2,3年前、彼女と同じ名家の子供が一族を滅ぼし里を抜けた事件があったな…
“己の器を計り知るため”…そんな偽りの言葉を宙に舞わせ里を捨てた子供…
名家の子供たちは少なからずプレッシャーを感じているだろう…
一族のために忍びになり、一族のために恥じない強さを
手に入れなければならない…
どれも大人たちの勝手な思考……それを子供たちに押し付ける…
この世界の厳しさを知っているはずなのに……
自分のエゴのため…一族の誇りのため…自らの家族を犠牲にする。

「…さん?」

日向の名をその背に背負いし心優しき乙女…

「…いや、気にしないでくれ」

あなたもいつの日かその名を鬱と感じる日が来るのだろう…

「わ、私でよかったらいつでも話を…その…」

それでもあなたはその心のまま、この道を進んでいくことが出来るのだろうか?

「……」

私はその時まで生きていこう…

「あ!…」

あなたが“あの子”と同じ道を歩まないことを願いながら…
彼女の部屋の窓から出て行く前、私はもう一度ヒナタの瞳を見つめる。
薄紫の大きな瞳…
すべてを見透かされてしまう美しい色…
いつかその心を支えてくれる人と出会える時まで…
自分を偽らず…苦を感じず…その名を背負える日まで…私は…

「また来る……此処は好きだから…」

「…は、はい!」



あなたを見守っていこう………







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2006年8月15日 ILLUST BY/ふるるか