8-決意した日
Last Game-Final Fantasy 4-
「気がついたかい、」
「急に倒れるから心配したんだから!」
「…倒れた…?そっか…」
意識を取り戻したの瞳にまず映ったのは、小生意気な態度をとりながらもどこか泣きそうな表情のリディアと
表情こそは兜に隠れて分からないが、声のトーンで安心していると感じ取れるセシルだった。
「魔法の使いすぎで精神力が弱ってしまったらしいんだ。あまり無茶しないでくれよ」
「アンナのためにありがとう…」
「あ…ギルバート王子…」
「どうして僕の名を?ああ…そういえば旅商人とか言っていたね…ギルバートでいいさ…もう、この国は…」
セシルたちの後ろから現れたギルバートはどこか寂しそうに答える。
彼の後ろ向きな態度が癪に障ったのか、は勢いよく上半身を起き上がらせ、彼の胸倉を掴んだ。
「何言ってる!あなたが…国の王子が生きているんだ。この国は終わりなんかじゃない!
あなたがこれからこの国を支えるんだ!」
「しかし…僕には……」
「ダムシアンの住民たちは今、誰かの支えが必要なんだ。それが出来るのはあなただけのはず…
あなたが生きているってこと…それだけでいいんだ。
国を守ろう。全員で助け合おう。そんな気持ちになれる。」
「…」
「いい国を築き上げるために王に必要なのは力だけじゃない。まずは住民たちの信頼を得ることにあるんだ。
彼らが王に信頼がなければどんな国もいい国にはなれない。力だけで支配した場合、その国は必ず潰れる。
バロンがどうして世界一の国家になったか…王のことを考えれば理解できるはずだ。
彼は確かに強い。けれど彼はそれ以上のモノも持っている。それはあなたにもあるはずだ…」
「……そう、だね…僕がこれからのダムシアンを守るんだ…いつまでも母の、父の袖を引っ張り歩いているわけには行かない…そうだね…?」
「あ?あ、ああ…」
すぐに彼の納得を得る事が出来ると思っていたわけではなかったらしく、驚きの表情を隠せないでいたが
ギルバートの言葉に優しく微笑む。
彼に足りないのは力でも住民たちの信頼でもない。
それは既に持っているから。彼に足りないのは自分に対する自信。
彼がそれさえ持ち合わせることが出来ればきっと唯一バロン王すらもしのいでしまう存在になるのではないかと考えていた。
そう、彼女はこれからもっと未来で出会うもう一人の王子のことを忘れていたのだ。
「そうと決まれば…もう話しは進んでいるのよね。セシル?」
「ああ…ホバーを貸してもらえることになった」
「そっか。私のせいで時間をロスしてしまったな…よし、すぐに出発しよう!」
「もう大丈夫なの?」
「体は十分に休まったさ。早くローザを助けるために行こう。ぶっ飛ばして行こう!!」
ホバーでたちは東のアントリオンの洞窟を目指した。
の乱暴な操縦で彼女以外は全員が気分が悪くなりセシルに二度と操縦はしないでくれと言われたことは詳しく説明する必要はないだろう。
「うっひゃ〜!すんげー、宝の山って感じだよなぁ!」
「もう!ちょっとは落ち着きなさいよ!」
「いいじゃん。いいじゃん!たまにしかこういった場所に来ないんだしさぁ。うひー!蜘蛛の糸発見!あ、こっちには南極の風もっ!」
あっちに走り、こっちに走り。初めは怪しまれ敵だと思われないようにと吐き始めた嘘だったが、もともと宝とかそういった類のものが大好きなは
今だけは立派な旅商人になっていた。
「お?これは…ちょっと古いけど、絃を貼り直せば使えるんじゃないか?どう思う?ギルバート…」
「そうだね…形からしてラミアの竪琴みたいだ…うん、まだ使えそうだ!」
「じゃ、それはギルバートが持ってなよ」
「結構な値で売れると思うけど…いいのか、?」
「ああ…私がほしい宝はもっともっと高価なものだ…」
笑顔。普通に見ればそう思えるものでもなぜか今のギルバートには苦笑に見えてしまった。
己の中にまだ根強く生きている傷がそう思わせているのか違うのか。今の彼には解らなかった。
「そろそろアントリオンたちの巣穴に着くはずなのだけど…」
「あそこではないのか?」
「ああ!そうだ。あそこだ」
セシルの指差す場所を見るとそこには人が1人やっと通れると言った感じの穴があった。
今は運良くアントリオンたちの産卵期らしく、かなりの数がいると先に入ったギルバートが言う。
中に入るとかなり広く、いく層にもなっていた。その中央とも言える場所でまさに今、この世に自分の子を産み落とそうとしているアントリオンがいた。
「ここがアントリオンたちの産卵地だ」
「なんだか怖いよ…」
「大丈夫。アントリオンは大人しいんだ。人間には危害を加えることはまずないさ。僕が取ってこよう」
「えー!私も行くぞ!せっかくの貴重品なだからな!」
「ははは。いいよ。ただ卵には触れないようにするんだよ…うわっ!!」
「ギルバート!!」
ギルバートが油断している隙にアントリオンは彼に一撃を与えた。
「リディア!ギルバートの治療を頼む!は僕と前線へ!」
「あ、ああ!」
「な、ぜだ…?アントリオンが人間を襲うなん、て…?」
リディアに治療してもらいながらふとそんな言葉を漏らす。
しかし、その問いへの答えはだれも持ち合わせてなどいなかった。
「セシル…出来ればアントリオンを殺したくはないんだけど……」
「…そうだな。僕も出来れば殺したくはない。何かいい方法はないだろうか…」
仲間が襲われたとはいえ、2人は目の前の魔物を殺す気にはなれないでいた。
セシルには一つの理由。には二つの理由があった。
その一つは魔物とはいえ、今は産卵時期。いつもより気が立っていてもおかしくはないということ。
もう一つはしかしらない真実。今はまだ誰にも話すことの出来ない真実。
そんな二人の考えなどなにも知らないアントリオンは今にも口元近くの巨大な角で襲い掛かってこようとしている。
「…!!」
「……一か八か…もしだめなら…」
両手を胸の前で組みの唇からは流れる風のような呪文が吐き出され始める。
もともと召喚士、黒魔術士としての才能を持っているリディアにはその印と呪文がなにを意味するのか理解できた。
「!!」
「…眠りの神に抱かれ、深き眠りにその身を委ねよ!スリプル!!」
「スリ…プル?」
アントリオンの体の周りは淡い虹色に輝く星々に包まれ、深く柔らかな眠りへと魔物を運んでいく。
魔物が眠りに入ったのを確認し、そしらぬ顔でせっせとアントリオンの分泌物をこびんに入れていく。
もちろん後方でわなわなと拳を振るわせるリディアの存在に気づいてはいた。その証拠に額からは巨大な冷や汗が流れ落ちていく…
「どうして!なんで!なんでメテオの印でスリプルが出てくるわけ!?ほんっとーにってば訳わかんない!
私の心配を返して!返せったら返せーー!」
「い、いや…あ、ああ…ご、ごめん。ちょっと脅かすつもりで――って…本当に謝るから…だからね…その、泣かないで、ね?」
魔物とは言え、我が子を守るために襲い掛かってきたのであろう物に、冷酷ともいえる態度で最高魔法を放とうとしているかのようなその姿に
リディアは本気で心を痛めていたようだ。
小さな声で何度も馬鹿馬鹿と呟いていた。
「遊びが過ぎたようだね?」
「…あ、うん…すいませんです…」
苦笑交じりに頭に触れてくるセシルにはうつむき謝ることしか出来なかった。
「謝ることはないさ。僕は別にを責めようとは思っていないよ」
「皆ちゃんと理解しているよ。アンナのことを必死で助けようとしてくれた…
何もかもを捨ててしまおうとしてた僕を励ましてくれた…
そんな君が魔物とはいえ我が子を守ろうとしている相手を傷つけるはずがないってね…」
「セシル…ギルバート…リディア…ごめんね…ゆるしてくれるかな?」
もともと涙腺が緩むのが早い。目尻が熱くなるのを感じ、泣くまいと必死に笑顔を作る。
「…もう、こういった悪戯はしないでね…?」
「うん…約束する」
「うん。約束…」
リディアの言葉に約束≠フしるしに小指を差し出すと、そこに小さな小指が絡む。
二人は笑顔でゆびきりを交わした。
文化がまったく違うと思っていた。
だから差し出したゆびに彼女の子供特有の小さなゆびが絡んできたとき本当に驚いたよ。
セシルもギルバートもリディアも…みんな悪戯の過ぎた私を許してくれた。
でもしっかりと心の中で反省したさ。
魔物とはいえ、傍に卵を置いていたアントリオンは立派な母親だった。
母を失ったリディア…
両親を失ったギルバート…
そんな彼らに対する配慮が欠けていたんだ。
だから決めた。
こんな悪戯はもう二度としないって…
洞窟の出口へと向かう間に誓った。
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2008年6月23日 ILLUST BY/ふるるか