1-始まりは気まぐれだった。
タッタッタ…
タッタッタ…
タッタッタ――…
いったい…いったい何が起きてるの!?
Important Feelings-Final Fantasy 6-
私の悪い癖。それは…
なにかいやなことがあるとすぐに逃げ出したくなること…
この日も私は母とちょっとした喧嘩をして、家を飛び出していた。
「さて!気晴らしに何しようかな…?あれは…」
どこかでしばらくの間、気晴らしと時間稼ぎをしようと街中をふらふらしていると一軒の店を見つけた。
店全体が黒で塗られ、ちょっと独特の雰囲気が漂う、そんな店だった。
新しい店なのかな?
この場所にはちょくちょく訪れてはいたが、こんな店は始めて見る。
私の記憶が正しければ、このような建物を建設していたはずもないのだが…
店を眺めていると入り口近くに看板を見つけた。
『現実世界に飽きてしまったあなたへ…別世界にトリップして見ませんか?』
でかでかと、いかにもインチキ臭い看板だったが、なぜか興味を持った。
というよりも、怪しいものほど人間の興味を刺激するものだ。
私はゆっくりと店の中に入っていった。
なによ、これ!?本当に別世界に来てしまったっていうの!?
てか、ここはどこなのよ!!
気がつくと薄暗く、じめじめしていて、挙句の果てにはかなり寒い炭坑の中を私は走っていた…
まるで夢を見てるかのような感覚は未だに抜けてはいないが、後ろから追っかけてくる巨大なねずみのような化け物につけられた
傷は痛み、出血は止まらない。そのおかげで私はこれが本当に夢じゃないと気づいたのだが……
店に入ると中は外と同じくらいに暗い…
店を見回しながらも私はカウンターへと足を進める。
「あのぉ〜……ここのお店はいったいなんですか?」
「いらっしゃいませ。ここは外の看板にも書かれているように、この世界≠ノ飽きたお客様をもっと刺激のある、
楽しい世界へ案内するところですわ」
カウンターにいた、笑顔がとっても美しい女性が丁寧に、優しく教えてくれた。
楽しい世界=c…その言葉は私にとってはとても興味をくすぐるもので、私は女性に案内されるがまま、
店の奥へと足を運んでいた…
「システムはどうなっているんですか?」
「シス、テム…ですか…?それはこれからお客様にお好きなジャンルの部屋を選んでもらい、その世界に送り込む。
そしてお客様にはこちらが与えた課題をこなしてもらうといった感じでございます。
見事、課題をクリアされたお客様には元の世界へ戻ってくることと願い事をひとつだけ叶える力を差し上げます」
店の中を移動中に私は少しでもこの新しいゲームのシステムなどを覚えようと店員さんに尋ねた。
少し前を進む女性が真面目な声で説明してくれた。
私は相変わらずとことん凝った作りなのだなーと説明を聞きながら歩く。
どんなに異世界に憧れていても現実を見つめる方の自分にはそれは存在しないはずの世界なのだから……
そう、私は異世界なんてこれぽっちも信じちゃいないんだよ。夢のない人間さ!ゲームとかアニメとか好きだけどね…
少し、誰に向かってかはわからないけど逆ギレしている間に目的地についていた。
……やば、ほとんど聞いていなかったな。
たどり着いた場所は無数の扉が並んでいて、格闘技=A忍者=Aテニス=A鋼=A脱色=A
再生=Aファンタジー=Aホラー=Aリセット≠ネどと書かれている。
中には少し変わった名前の部屋もあり、正直入るのが怖くなってきた。
「お客様はどの部屋になさいますか?」
「課題はどうなるんですか?」
「ドアの向うに案内人がいらっしゃいます。そちらの方が課題をお渡しいたしますわ」
「そうですか……じゃあ、私は……」
店員さんと質問と答えのやり取りを交わし、もう一度、各ドアを見渡し、私は尤も自分の興味を惹く言葉を探す。
どうせなら簡単に体験ができないような世界を選びたいものだしね。
そして実際3つ、その考えに当てはまるドアがあった。
復活=Aファンタジー≠サしてリセット=B
しかしリセットと書かれた扉はほかの扉たちと色が違っていた。
店員さんにたずねると、それはプレイを諦めますの扉だと教えてもらった。
なので2つに絞られる。しかし、復活って意味がわからなく難しそうだったので、ゲーム好きの王道を選ぶことにしました…チキンでごめんなさい。
「ファンタジー≠フ部屋を……」
「ファンタジー≠ナすね。かしこまりました。では、どうぞ、お入り下さい」
ガチャリ――とドアを開くと、長く薄暗い廊下と奥にもう一枚の扉が目に入った。
ここで立ち止まっていても仕方がないと思い、中にゆっくりと入ってみる…入ったのと同時に扉は閉まった…う゛あっ!びっくりしたー…
ドクドクとうるさい心臓を落ち着かせるため、数回深呼吸をして奥へと進む。
ちょっとおねーさん…ホラーの扉と間違ってないよねぇ…?怖いんですけど…なんせ1人だし!!
何か出やしないか、出やしないかとびくびくしながら奥の扉を開けてみる。
正直に言いますと私、運動音痴なんでなにか出たらきっとそのままあの世逝きになると思うんだけど…
「ようこそ……」
「ぎゃあああああ!!!出た出た出た出た!!!」
突然声が聞こえ、目の前に人が立っていたので驚き、叫んだ。そしてその拍子にしりもちもついてしまった。
お尻から頭のてっぺんにまで響き渡ったその痛みに我を連れ戻し、目の前の人をしっかりと見上げてみると
微かに笑い声を漏らし、肩を震わせていた…は、はずかしい…
「…わたしはファイ。この部屋の番人、あなたをファンタジーの世界へと案内する役目を持つ者…」
時折、クックッと笑いを堪えながらもなんとか平然を保とうとしているファイと言う女性。
ちょっと失礼なやつだと感じるが、そんなことがどうでもいいと思えてしまうほどにその容姿に釘付けになってしまう。
ゆっくりと近づいてくるたびに彼女の炎のような赤い髪が揺れ、本当に綺麗…いや、美しいと言えるから。
彼女の美しさに見とれていると不意に腕を後ろに回された。え、え?な、何でございましょうか!?
あたふたしているとその腕は首に回され、なんだがよくわからないが首輪のようなものをつけられてしまった…犬?
「……これは?」
「あなたへの保険…万が一あなたが向こうの世界で死んでしまった場合、あなたの遺体回収とご両親に3億円の保険金が支払われるのよ」
3億…3億円!?……私って結構価値があったんだねぇ…ってこんなのんきなことを言ってる場合じゃない!!
死んでしまったらってゲーム≠ネのになんで死ぬ可能性があるのよ!?そもそも向うの世界ってなに?
ただのシュミレーションかRPGゲームじゃないの!?
ファイの言葉で初めて自分が危険な場所へ来てしまっていたのだと実感させられた。
今ならまだ引き返せるのかもしれない。そう思った私は、彼女にやっぱり帰りますと伝えようと試みたが、制されてしまった。
「この部屋に入ったときからあなたにはリセット≠フ権利は失われているわ。進めることしか出来ないの……」
………まるで強制イベント……セーブも回復も出来ないような状態になった私は本気で
普段ゲーム中に何度もやったリセットボタンを押したいと思った。
店に入る前に戻りたい……
なんてことを考えていても何の意味も成さなかった。後悔している間もファイは命がけのゲーム≠フ説明をしていた。
もちろん私の頭はそんなことなど聞いているはずもなく、後々、それが私にとって大きな痛手となることに……
「………全てのオーブの欠片を集めてくる、それがあなたに与える課題よ」
「へ…オ、オーブゥ…?」
「そう、オーブは全部で八種類。炎=A水=A風=A地=A雷=A闇=A命=A聖=B
ここに各オーブの欠片があるわ。近くに同じ属性の欠片があるとき、反応するから。
全てを見つけることが出来ればあなたはこの世界に戻ることが出来、あなたの願いを1つだけ叶えてあげることもできるわ」
八つの欠けた石を渡された私はもうこの運命に従うしかなかった。少し汗ばんできた手を強く握り締め、私は決意をする。
必ず生きて帰ってくると……
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2006年9月19日
2007年4月1日 ILLUST BY/ふるるか