1-発見





あの沈んだ船を見つけたとき、彼らは自分たちだけの秘密にしておこうと約束していた。






7-Seven






町のダイバーたちなら誰もがその船の存在を知っていた。同時にだれもその沈没船に価値を与える者もいなった。
ダイバーたちにとってその沈没船は一昔前に使われた、漁船で、今はただの腐った無価値の木の山だと思われていた。ティアゴ以外はそう思っていた…
彼の物事を見極めることの出来る瞳と感があの船の形がただの無価値の漁船ではないと訴えていた。
これはもっと調べてみる価値があるとも。
そして次の潜水で仲間の力を借り、彼は一つの確信を持つことが出来た。それはそのオンボロの船が漁船ではないということ。少なくともこの時代のものではないと。
彼らは喜んだ。もし彼らの仮説が本当だとすれば、彼らは数億はするであろうお宝の隠し場所を見つけたこととなるから。

「船の写真を撮る必要があるな」

ゴーグルをはずしながらティアゴが言う。

「ペタを知っているか?ほら、あのバーの…」

彼の言葉に親友のセザーが同じくゴーグルをはずしながら尋ねた。

「知ってる」

「あいつは水中撮影の出来るカメラなどを持っている。そういう仕事をしているからな」

「そいつ、レンタル料、高く取ってんのか?セザー」

「さぁな。やつはかなりのケチだからな。一緒に来たがるんじゃねえのか?」

「それは駄目だ。あまりたくさんの人に知られてしまったらすぐ、あの船の周りには宝に目が眩んだ亡者どが集まってくるに違いない」

ティアゴの反対の言葉を聴きながらセザーは彼の背から酸素ボンベをはずしてやる。そしてすぐに自分もあの重たいモノを脱ぎ捨てた。

「それにしてもよく今まで誰もあの船を調べようとしなかったよなぁ。きっとあの中にはお宝がたくさんあるんだぜ!」

ティアゴは無言でモーターボートのエンジンを発進させた。確かにセザーは正しかった。しかし、船が沈んでいる近辺は人が集まりにくい場所であった。
理由は観光できる場所もないから。
それではなぜ自分たちがそんなところで潜っているのかと聞かれれば、答えは一つ。ほかに行くところがないから。
どこかへ遊びに行く金なんて滅多に残らなかった。仕方ないから近くの海の砂を鶏のように蹴って歩くしかなかった。

ティアゴとセザーは幼いころから海に潜ることを覚えた。セザーはアマハソンの生まれだった。そしてティアゴの方は12歳の時にこの町に来たのだった。
理由は父親の転勤。家族全員でこちらに引越してきたのだ。彼の母はずっと大都市、ポルト・アレグレで暮らしてきた。
引越しが決まったとき、静かなところで暮らせるとかなりうれしそうにしていた。しかし子供たちは違った。3人とも子供から大人への階段を上り始めた年齢だった。
そんな彼らの頭は常に遊ぶことしかない。そんな彼らにとって、ポルト・アレグレの方が何もない田舎町なんかよりずっと魅力的だった。
だからと言って何が出来る!子供たちも諦め、すぐにその町に馴染んだ。
その3姉弟の中でティアゴが末っ子だった。とは言っても彼と兄――タデウは双子だったが、ティアゴのほうが最後に生まれたから弟となってしまったのだ。
そして2人の上には3歳年上の姉、サブリナがいた。
その姉は2年前に結婚し、そして今年で5年になるか――姉はこの町を出、別の県で暮らしていた。
連絡はたまにと言った感じで、会いに行くのはそれよりも稀なものだった。けれど彼の家族では彼と姉しか残っていなかった。
父親はアマハソンで凄腕の刑事だった。しかし彼ティアゴが16歳の時、ある事件のいざこざでその命を絶たれてしまう。
双子の兄はその2年後に他界した。この海で溺死…彼の貧しいが幸せだった家庭はそれを期に崩れ始めた。母親は絶望で日に日に衰え死んで行った。
とくにタデウが死んでからは彼女の顔から幸せは消え、代わりに深い悲しみが宿っていた。二度とあの優しかった母親に戻ることはなかった。
ティアゴはそんな母の姿を見て驚くしかなかった。そして少しでも家族≠ニ言った絆を保たせるために自らの悲しみや鬱と戦った。
自分が支えなくてはという思いが彼を支えた。
一方姉はティアゴが20のときにサン・パウロ市へと引っ越してしまった。
叔父夫婦が彼女に自分たちの子供の面倒を見てもらう代わりに、彼女に住まいと大学費を支払うと言う条件で。
もちろん今の時代、教育のない者たちはどんなにあがいてもいい仕事など見付かるはずがない。
だが、大学を出れば…せめて自分といつかは出来るであろう家族を養っていくだけのことは出来る。
彼女はそれを受け入れた。
そして結婚するまでの間、叔父夫婦の家で暮らした。今はサン・パウロ市の隣町、オザスコで暮らしている。

今までティアゴは2度姉に会いに行った。2000年と去年。最後のは自分の甥っ子が生まれたためだった。
不思議なことにその甥も自分とタデウと同じに双子だった。

話は彼に戻り、叔父たちは彼にもこちらに越してくるよう勧めた。だが、ティアゴには家族の思い出が残るこの町を離れたくはなかった。
彼のふるさとは此処≠セった。
たしかにこんな小さな田舎町では大もうけできるチャンスは滅多にないことは知っていた。
けれど生きていくための必要最低限のものはすべて揃っていた。
ただ、何かあるとすればそれは、彼が今でも戦っている心の奥底で眠る、家族を失った傷。
その古傷だけが彼から、この町の楽しさというモノを奪ってしまっていた。
今でもふとしたときに思う――もしタデウが生きていれば楽しかっただろう。
もしタデウが生きていれば2人で馬鹿騒ぎして楽しんだだろう。もしタデウが生きていれば…次の週で2人は25歳の誕生日を迎えたであろう……と。

ボートは既に浜辺近くまで来ていた。セザーはモーターを切り、ボートが自然と浜に上がることにさせた。
そしてプロペラとモーターを取り外し、ボートの中にしまっておく。
浜辺に着くと2人はボートから飛び降り、縄を引っ掛け、ボートをゆっくりと海から遠ざけた。
その日の海はとても静かだった。








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2007年11月26日    ILLUST BY/ふるるか